建設業界の仕事は社会に必要不可欠なものですが、近年は慢性的な人手不足に悩まされています。今回は、建設業界の現状と人手不足の原因、さらに問題の解決策までを解説します。
建築業界の現状
政府資料によると、日本国内の建設業界では1997年に就業者数が685万人と頂点に達しましたが、その後は減少を続け、2020年には推定505万人となり、20年余りで26%近くも減少しました。加えて、建設業界の有効求人倍率は大きく上昇しています。2020年はコロナの影響でやや下がったものの、2009年の0.84倍から2019年の6.69倍まで一貫して増加しており、今後もこの流れはある程度続くと予想されています。
建築業界の人手不足が進んでいる原因とは?
では、近年の建設業界で人手不足が進んでいるのはどうしてなのでしょうか。<若者離れ>
近年の建設労働者は高齢化が進んでおり、2018年は60歳以上の割合が25.2%であったのに対して、29歳以下の割合は11.1%となっています。
建設労働には、いわゆる3K(きつい・汚い・危険)のイメージが強くあります。夏の暑さに耐え、冬の寒さを忍び、天気に左右されやすく、ときに危険で汚れた現場で泥と汗にまみれて辛苦しなければならない。これが建設労働の一般的イメージでしょう。
昔の労働者は、仕事とは苦しくて当然のものであり、その中に働く楽しさや達成の喜びもあるものだと考えていたかもしれません。また、昔は他の就労選択肢は少なく、また仲間や同志も多かったことで乗り越えられたという側面もあります。
一方、今の若者は良くも悪くもより合理的です。少しのことで厳しく怒られる3K環境で一人前になるまで忍耐するよりも、身体は快適な環境で頭脳に汗をかく方がスマートと思う傾向にあると言えます。
もちろん、これらはイメージであって、実際には昔も今もさまざまな現場やスタイルがあります。しかし、世間をあまり知らない若者は、自分の将来的な職業人生を考えたときに、こういったイメージだけで建築業界全体を敬遠してしまうという傾向があるのです。
<不安定な収入>
さらに、離職率の高さも建設業界の人手不足の大きな原因です。
離職してしまう一番の原因は、収入の不安定さにあります。建設業界において、賃金は日給で支払われることが一般的です。つまり、天候不順などで仕事ができない日が続いてしまうと、生活費が稼げずに苦しくなります。
また、天候不順で仕事が進まなくても、顧客と約束した納期は絶対に守らなければなりません。そのため、長時間労働になることも少なくありません。国の資料によると、建設業界は全産業の平均と比較して年間339時間(2018年度)もの長時間労働が発生したとされています。
このように、特に仕事と家庭・プライベートとのワークライフバランスを大事にしたい人にとって、建設業界で働き続けることは難しい構造になっているのです。
<リーマンショックの影響>
加えて、2008年のリーマンショックで、日本国内の建設業界も大きな衝撃を受けました。もともとバブル崩壊後から減少傾向が続いていた建設投資額はさらに縮小し、自身と業界の将来を悲観した優秀な技術者が多く離職していきました。
東日本大震災からの復興事業や東京オリンピックへ向けての建設ラッシュで建設投資額は上昇に転じましたが、一度去った人材はもう戻らず、慢性的な人手不足は依然として続いています。
人手不足を解決する方法とは
では、このような建設業界での人手不足を少しでも解消するためにはどうしたら良いのでしょうか。国や建設業界全体としてもさまざまな施策を打ち出していますが、ここでは企業ができるポイントをご紹介します。イメージの改善
若い世代が建設業界に希望を持てるようにするためには、なによりも3Kのネガティブイメージを払拭しなければなりません。そのためには、企業のホームページを見栄え良く作ることも有効ですが、SNSやブログでのアピールはより手軽で効果的です。現代の建設現場では、安全であることはもちろん、恰好がよくて快適に働ける服装やツールが充実しており、かつてのような3Kばかりの現場ではありません。このようなポイントを、実際に働く人の声として発信すると良いかもしれません。
また、工業高校生や専門学校生などの若者を含めた広い層が気軽に参加できる、建設現場の見学会を実施することも有効な手でしょう。実際に現場に足を運んでもらって、機械化・自動化により危険で汚い作業は減っていること、休憩時間が長くきついばかりではないこと、そして何より顧客だけでなく多くの人の目にはっきり見える形で仕事を残せるという誇りとやりがいを、きちんと魅力的に伝えることが重要です。
待遇の改善
建設業界は、現場にも管理側にも高度かつ専門的な技術・知識が必要です。その頑張りに見合った待遇になれるよう、できるところから改善していくことも有効です。
まずは安心して働いてもらうため、他業種に比して加入率が低いとされる社会保険への参加を徹底したり、福利厚生を充実させたりすることなど、待遇の改善を行いましょう。
さらに、住宅手当・通勤手当・資格取得支援など、法律で定められている以上の待遇を提供できれば、女性や外国人なども含めた多様で優秀な人材が建設業界にも目を向けてくれる可能性が高まります。あわせて月給制の導入も考えると良いでしょう。
生産性の向上
上記のような施策を実行に移してもなお、新規建設労働者の確保が難しいことがあるかもしれません。そのときは、現場作業の生産性を上げるために、移動式吊り足場やロボット溶接などの技術を積極的に導入しましょう。吊り足場がレール起動での移動式だと何度も組み直さなくて良く、ロボット溶接は熟練職人の代わりになります。このような方法で現場の能率を向上させることで、人員数はそのままでも、個々の作業員の負担を軽減して工期を短縮することが可能です。
また、ドローンの現場活用も検討したいポイントです。さらに、建設業界においてもDXを推進することで、業務を大幅に効率化できる可能性があります。将来にわたって利益を確保できるように、新しい技術も積極的に取り入れながら改革していきましょう。