少子高齢化が急速に進む日本において、介護施設の充実や介護士の確保はできるだけ早く実現しなければなりません。
しかし実際には、介護の現場では人手不足が深刻化しています。この記事では、介護業界の現状と課題、および解決策についてご紹介します。
介護業界の現状
介護業界は、少子高齢化の影響を多分に受けている業界です。内閣府が提出する「高齢社会白書」によれば、令和元年10月1日時点で、高齢者が日本の総人口に対して占める割合は28.4%となっています。昨年が28.1%、一昨年が27.7%であったことに鑑みても、今後も高齢者の割合は増加傾向にあると考えられます。また、日本では出生数も減少を続けており、2019年には90万人にまで減少しました。
このように、人口だけで見ても、介護施設を利用する人が増えているのに対して、未来の担い手である若者は減っています。さらに、介護士の数が足りていないことに加え、法令で定められた最低人員配置(入所者3人につき1人の介護士を配置しなければならない)では実際の現場は回らないという別の問題もあります。
このような理由から、介護の現場は慢性的な人手不足に悩まされているのです。
介護士が人手不足になっているのはなぜ?
ここからは、介護士が人手不足となっている原因を深掘りして見ていきましょう。人間関係による離職
介護士の人手不足の原因として、まず挙げられるのが「人間関係による離職が多い」ことです。
介護士は、介護者やその家族だけでなく、医療機関のスタッフなどさまざまな人と関わる機会があり、人間関係に関するストレスを感じる人が相対的に多い職業だと言われています。実際に、施設を利用する介護者から暴言を吐かれたり、わがままを言われたり、時には暴力を振るわれたりした経験がある人が少なくありません。また、職場の同僚に対しても、パワハラを受けたり仕事に関する考え方の違いが露呈したりして悩む人が多いようです。
採用が困難
介護業界が「採用難」に陥っていることも、介護士の人手不足の原因として挙げられます。
令和元年度の「介護労働実態調査」によれば、事業所の90%が人手不足の原因として「採用が困難なこと」を挙げています。同調査によれば、採用難の主な理由としては、「同業他社との人材獲得競争が激しいこと」「他の産業に比べて労働条件などがよくない」「介護業界に人材が集まらない」という理由が挙がっています。
業界に対するネガティブなイメージ
介護業界には、きつい・汚い・危険という「3K」のイメージが持たれがちです。平成26年に長崎県が行ったアンケートでは、8割を超える回答者が「介護の仕事をやってみたいと思わない」と答え、その多くが「待遇が悪い」「体力的・精神的にきつい」というイメージを持っていることが判明しました。
こういった悪いイメージは、介護士の経験がない人の採用や他業界からの転職を促すにあたって大きな足かせとなっています。
仕事量に見合わない社会的評価の低さ
介護士という職業に対するネガティブなイメージは、先ほどの「3K」だけでなく、「仕事が大変な割に給与が低い」という点にも起因しています。
介護士の推定平均年収は330万円とされていますが、これは全業種の平均である440万円と比べるとかなり開きがあります。また、これはあくまでも平均年収であって、実際には生活が難しい水準の給与で働いている介護士も存在します。
こういった給与面を中心とした待遇の悪さが、特に若手や未経験の人材が介護の仕事へと踏み出すことを阻んでいるのです。
人手不足を解消する施策
では、介護士の人手不足を解消するにはどうしたら良いのででしょうか。以下で3つの施策をご紹介します。①労働環境の改善
介護士の人手不足を解消する施策としてまず挙げられるのは、ITやユニットケアシステムを使った「労働環境の改善」です。
たとえば、紙の日報ベースで介護者の管理を行っている施設がITのシステムを導入すれば、管理作業にかかる時間を大幅に削減することができます。従業員の管理については、勤怠管理システムを導入するのも一つの手です。また、給与面で苦しい介護士のための前払い給与サービスなども検討に値するでしょう。
同じように、ユニットケアシステムの導入も介護士の人手不足の解消に効果的でしょう。ユニットケアとは、10名程度の入居者を1つのユニットとして一緒に生活してもらい、決まった介護士が介護を担当する形のシステムです。ユニットごとに適切なスタッフを配置することで、限られた人員でも効率的に業務をこなすことができます。
②人材派遣会社の利用
「急いで介護士を補う必要がある」「欠員がなかなか埋まらない」といった悩みがあるときは、人材派遣会社を利用するのも有効です。
人材派遣を利用する場合、当該従業員の雇用主は人材派遣会社となります。そのため、給与や保険などの労務管理は派遣会社が行うことになり、従業員を迎え入れる介護施設などにとっては、面倒な管理面の責務を負わずに必要な即戦力を得ることが可能です。
もちろんマッチング面での課題や長期雇用を求める場合に根本的な解決にならないといった問題点はありますが、今すぐに人材を確保したいという場合に備え、事前に検討しておきたい手段です。
③外国人人材の採用
どの業界においても人材不足の解消手段として外国人の受け入れが重要視されていますが、介護業界も例外ではありません。
たとえば、平成20年7月1日に発行された日・インドネシア経済連携協定に基づいて、インドネシア人の看護師が受け入れられるようになりました。またそれとほぼ同じ頃に、フィリピンとの経済連携協定も発行されています。
最近では、2020年にベトナムから1万人の介護人材が技能実習制度を活用して日本で働くことができるように、政府間で合意がなされました。今後も外国人労働者の採用を後押しする流れは加速していくでしょう。
この流れに乗り遅れないためには、ビザ取得などについて専門業者に相談する、周囲のスタッフへの理解を呼びかけるなど、現場もあらかじめ準備を進めておくことが大切です。