新型コロナウィルスの感染拡大が続くなか、全国各地で断続的に外出自粛や営業時間短縮の要請が出されています。多くの飲食店にとっては不安定で苦しい状況でしょう。
状況の打開策として、お客様が外出せずに食事を楽しめるECの導入が挙げられます。これまでに多くの飲食店がECでの販売を始めており、飲食店として新たなことを始めるうえで適したタイミングとも捉えられます。
そこでこの記事では、飲食店がECサイトを開業するための手順や注意すべきポイントなどを紹介します。
飲食店業界の現状
新型コロナウィルスの流行が始まって以来、全国的に飲食店は経営に大きな打撃を受け続けています。感染防止のために実店舗での会食がしづらいこと、営業時間の短縮が求められることなどにより、どこの飲食店も店舗での売上が激減している状況です。流行の終息まではほど遠いなかで、ECやデリバリーなど店舗以外で料理を提供する飲食店が増えています。人々が外出しないため、逆に家庭で食べられる形式の飲食物は、需要が拡大傾向にあるのです。
テレワークの普及などで生活様式が変化したことにより、特に都市部の飲食店は終息後もコロナ流行以前の売上には戻らないかもしれないとされています。新しい時代に対応するために、今後の飲食店ではECサイトの立ち上げやデリバリーサービスの実施などが欠かせない要素になるでしょう。
飲食店がECサイトを開業するまでの流れ
飲食店がECサイトを設立・開業するためには準備が必要です。何を売るか、どのようにECサイトを作るかなど、必要な準備内容を把握して一つひとつ取り組みましょう。ここでは飲食店におけるECサイト開業までの流れを解説します。①販売商品を作る 飲食店のECサイトを立ち上げるためには、ECサイト内で販売する商品を作る必要があります。
最も手早い方法は、元々実店舗で提供していた料理・食材をパッケージ化することです。飲食店によっては丼やレンゲ、Tシャツやオリジナルキャラクターのグッズなどを販売していることもあり、これらオリジナルグッズもEC販売に適しています。レジ袋が有料化されてからは、エコバッグやトートバッグを販売している飲食店のECサイトもみられます。
このように、アイデアや工夫により様々な商品が考えられますが、衛生管理や輸送中にこぼれるリスクなどを考慮して商品を選びましょう。基本的には比較的梱包しやすい固形物がおすすめです。
②保健所に許可をもらう
ECで販売する商品が決まったら、次は保健所から必要な許可を取らなくてはなりません。飲食店での料理提供とECでの食品販売とでは求められる許可が異なり、EC販売では食品衛生法に基づく営業許可が必要です。食品の種類によっても許可の内容が異なるため注意しましょう。
飲食物をEC販売するためには、主に製造業系・販売業系の許可が必要です。飲食店を経営していれば販売業系の許可は容易に取れますが、製造業系の許可は高度な設備などが必要です。そのため、付き合いのある精肉業者などに製造の委託をすることをおすすめします。
なお、保健所はエリアごとにローカルルールが存在します。そのため、「知人が経営する飲食店の地域で行えた販売方法が自分の地域では認められなかった」という事態が起こり得ます。ECでの販売商品が決まり次第、なるべく早く保健所で確認しましょう。
③ECサイトを構築する 保健所の許可を得たら、ECサイトを構築しましょう。飲食店がEC販売を始めるためには、主に「自社でECサイトを製作する」「ECサイト製作会社に依頼する」「既存のECモールに出品する」という3種類の方法が挙げられます。各方法を以下で解説します。
③-1:自社でECサイトを製作する
極力他社の手を借りずに自分でECサイト制作を行い販売する方法です。最も安く短期間で開設できる方法であり、「ASP」と呼ばれるECサイト製作サービスを利用すれば比較的簡単にECサイトの開設が行えます。
③-2:ECサイト制作会社に依頼する
ECサイトなど各種Webサイトを制作する会社に依頼して、自社用のECサイトを作ってもらう方法です。手間や知識がなくともクオリティの高いECサイトを活用できますが、費用と時間が多めにかかる点や、セキュリティ管理に気を配る必要がある点に注意しましょう。
③-3:既存のECモールに出品する
インターネット上で展開しているショッピングモール型のECサイトに出品する方法です。手間がかからないうえに、サイトの知名度が高いため集客も容易です。ただし、初期費用やランニングコストが高くなる可能性があります。
④商品を梱包・配送する
ECサイトで注文を受けたら、商品を梱包・配送します。
飲食店のECサイトでは基本的に食品を扱うため、多くの場合は冷蔵・冷凍での配送を行います。食品を冷蔵・冷凍して冷凍食品として配送する際は、「食品の冷凍業または冷蔵業」という営業許可が必要です。この許可は取得しづらいため、単に冷凍して配送する「冷凍流通品」として扱う場合もあります。また、多少コストはかかりますが、運送会社が提供しているクール便サービスを利用すると最も安心できます。
商品の梱包は基本的にダンボールを使用しますが、商品が入る大きさかつ、ある程度頑丈なものを選びましょう。オリジナルのダンボールを作成できるサービスの利用もおすすめです。梱包の際には底に新聞紙などを敷き詰めてから商品と保冷剤を入れて、緩衝材で隙間を埋めます。
ECサイトを開業する際の注意点
飲食店がECサイトを開業する際にはいくつかの注意点があります。食品を飲食店内で提供しないため規制がより厳しく、コストも多くかかるため工夫が必要なのです。以下では、飲食店のECサイト開業における注意点を解説します。食品表示は必須である
ECサイトで食品を販売する場合、名称や原材料名などの食品表示を必ず行いましょう。食品表示法により、食品販売の際には食品表示ラベルの添付が義務付けられています。食品ごとに記載すべき内容や表示のレイアウトが決められており、加工食品の場合は「アレルギー表示」「消費期限」「保存方法」の3項目を必ず表示しなくてはなりません。原材料名は使用量が多いものから書いていきましょう。
なお、食品表示ラベルは作成用のテンプレートで自作するか、ネット印刷業者で注文すると簡単に用意できます。
梱包・配送にも料金がかかる
販売商品の原価を考えるときには、商品の梱包や配送にかかる分まで計算しておきましょう。
まず、梱包用のダンボールはホームセンターやダンボール専門店などで購入するか、オーダーメイドのダンボール作成を依頼します。ダンボールは商品を購入したお客様が最初に手に取るもののため、単なる梱包資材だと軽く考えずにしっかりと準備しましょう。
商品の配送料はサイズ・配送先・業者などで異なります。なるべく複数業者を比較して、お得な業者を選択できればコストを抑えられます。商品を配送所まで持ち込めばさらに送料を安くできるため、可能であれば検討しましょう。
特定商取引法について理解する
ECサイトで通信販売を行う際には、特定商取引法の理解が必須です。
商品を直接確認できない通信販売では、店頭販売よりトラブルが起こりやすいため、販売事業者は特定商取引法に基づく表記の記載が求められます。インターネット上に設けられたECサイトでの販売も通信販売にあたり、以下の6種類に関して規制がかけられています。
・広告の表示
・誇大広告等の禁止
・未承諾者に対する電子メール広告の提供禁止
・前払式通信販売の承諾等の通知
・契約解除に伴う債務不履行の禁止
・顧客の意に反して契約の申し込みをさせようとする行為の禁止
広告に関しては、主に誤解を招く内容が禁止されています。特定商取引法を遵守せずにECサイトを運用している飲食店は、業務改善指示や業務停止命令などの行政処分を受ける可能性があるため注意しましょう。
商品の説明書きを同封する
商品を梱包する際に、調理方法や温め方などの説明書きを同封しましょう。店長や従業員が調理する実店舗と異なり、ECで販売した食品はお客様が自分で調理するため、調理法がわからず困る可能性があるからです。なるべく丁寧に説明して、できれば食品の美味しい食べ方やアレンジメニューなどもつけるとより喜んでもらえるでしょう。
また、商品の調理方法や食べ方以外に、商品自体の説明を同封する場合もあります。飲食店ならではの視点や商品の特徴、商品に込めたこだわりなどを伝えましょう。
まとめ
この記事では、飲食店がECサイトを開業する際の手順や注意点などについて解説しました。飲食業界全体が苦難の時を迎えている今、従来の発想にこだわらない新しい積極的な行動が必要です。新たな事業によりこれまでの課題を解決する糸口が見えたり、自分たちに合っている方向性をつかめたりする可能性もあります。また、EC販売で自分たちの料理をより多くのお客様が家にいながら楽しめれば、感染終息後に流行前より多くのお客様の来店が期待できるかもしれません。ピンチをチャンスに変えて、さらに多くのお客様を料理で楽しませましょう。