企業で労務や人事に関わる方であれば、時間外労働に関する法制度である「36(さぶろく)協定」のことを見聞きしたことがあるかもしれません。しかし、言葉として必要最低限のことは知っていても、詳しく調べたことはない方も多いでしょう。
企業のコンプライアンスがますます求められるようになってきた現代において、雇用に関わる方を始めとしたビジネスパーソンが36協定について知ることは必須と言えます。この記事では、アルバイトなどの非正規労働者の雇用における36協定の扱いを理解できるよう、制度の概要と注意点を解説します。
この記事の概要
・36協定って一体何?・時間外労働の上限に関する基本ルール
・36協定の届けを出す際の注意点
・まとめ
36協定って一体何?
36協定は、労働基準法36条に規定されていることから名付けられています。その内容は、法定労働時間とは別に労働をさせる際には、あらかじめ労使(労働者と使用者)間で協定を結んだうえで、行政機関に届け出をしなければならないというものです。
36協定は原則として、大小問わずすべての企業が対象です。(労働基準法は政府主導の働き方改革の一環として一部改正され、大企業には2019年4月から、中小企業には2020年4月から適用されています。)以下で36協定の必要性と適用範囲などをみていきましょう。
36協定はなぜ必要なのか
そもそも、なぜ36協定が必要とされたのでしょうか。その歴史は、日本の産業構造が農業中心から工業奨励へと転換した明治の殖産興業の時代にまで遡ります。
当時、労働者の労働時間に法的制限はなく、長時間労働を強いられた労働者が過労死するケースが多発していました。そこで、労働者の生命・財産と権利を国として保護する必要が強く叫ばれたことから、1911年に日本初の労働法制である工場法が定められました。
しかし、現在までの基本法として定着しているのは、戦後の1947年に本格的に制定された労働基準法です。この労働基準法では、労働時間は原則として1日8時間、1週40時間と定められており、これを「法定労働時間」と呼びます。
アルバイトにも36協定は適用されるのか
36協定に関してアルバイトなどの非正規労働者と正社員との区別はなく、協定の締結時に算入されていなかったアルバイトなどを含む中途入社の労働者にも適用されます。さらに、18歳未満の労働者や妊産婦、育児や介護をしている労働者については、後に述べるものとは別に時間外労働の上限が設けられています。
アルバイトの残業は、雇用通知書に明示することで可能です。残業代に関しては、残業を含めた労働時間が法定労働時間内ならば通常の賃金、36協定を結んだうえで超過した場合は割増賃金を支払う必要があります。
36協定に違反した際の罰則
36協定なしで時間外労働をさせると処罰の対象となりますが、36協定を結んだうえで違反して従業員を働かせた場合、労働基準法32条違反になります。今回の労働基準法改正で量刑が重くなり、違反には6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられるようになりました。
36協定の時間外労働の上限
36協定で定められた時間外労働条件についても、法令により上限が決められています。
時間外労働の上限に関する基本ルール
残業の上限は、1ヶ月で45時間、1年で360時間が原則です。また、限度の時間を超えての勤務は、1年に6回までとなっています。時間外労働の上限が適用されない業種
労働基準法改正前には、医師、建設業や運搬業、労働基準監督署に指定された業務などが時間外労働の上限の適用外でした。今回の改正ではこれらの業種への適用が2024年4月からとされることになり、この場合も、時間外労働には36協定の締結が必要です。
なお、今後も新技術・新商品などの研究開発業務については、上限規制の適用対象外です。
36協定の届けを出す際の注意点
では、36協定の届けを出す際には、どんな点に注意すれば良いのでしょうか。以下で主な4つのポイントを解説します。①従業員の健康および福祉を確保する措置を講じる
第1のポイントは、上限時間を超えて働く従業員に対して、健康・福祉が十分に確保されているかという点です。
使用者は、36協定の範囲内であっても、労働契約法5条の安全配慮義務を負います。さらに、労働時間の長さと過労死に関連が強いことに十分注意する必要があるでしょう。また、健康診断や医師による面接指導などの健康対策措置の実施が望ましいとされています。
②36協定の上限を超える際は、特別条項に事情を記載する
第2のポイントは、繁忙期などの特別な理由で定められた限度時間以上の労働についての理由が、特別条項に記載されているかということです。
今まではこの特別条項に事情を記せば無制限に時間外労働が可能でしたが、今回の労働基準法改正で法定の上限が設定されました。具体的には、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合であっても、年720時間以内、複数月平均80時間以内、月100時間未満を超えることはできないという内容です。
③労働者の過半数の合意が必要になる
第3のポイントは、労使間で36協定を締結するためには、工場や店舗などの事業所ごとに、アルバイトなどを含む労働者の過半数の合意が求められるというものです。
過半数の代表者は民主的な方式で選ばれ、会社側と交渉して36協定を締結します。会社側が過半数の代表者を選ぶことはできません。
④36協定には有効期限がある
第4のポイントは、36協定には有効期限があることです。
協定締結時ではなく届け出た時点から有効で、期限は1年間です。締結日には、1日・1ヶ月・1年と区切りがあるので、必ず締結日を設定しておきましょう。